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 部屋をイラつきながら歩いていたチヒロが叫んでいた。
「いつなら決行出来る?」
 アキが静かな口調で言った。
「一週間待ってください。一週間だけぇええ」
 犬は半べそをかきながらも、どこか不敵に笑っていた。



 母の様子を見に田舎に帰ると言い出したユィナは、止めようとはしなかったが兄に、自分の事は話すなと念を押され、二人の仲を取り持ちたいと願う心を複雑に揺らしていた。そして、このトライクは店長からの借り物だからと、
「心配しなくていい、あいつはまだ生きてる…」
 バイト先へ戻って行った。
「ほ、ほんとう?!」
 去り際に渡された見覚えのあるポーチ、中に取り上げられてしまっていたブルーの携帯が入っていた。母が病気だと知ってから心配でたまらない日々を過ごし、兄の心を癒そうと必死で耐えてきた今、恐る恐る携帯を開いユィナ。日付は古かったがそれ以降来なくなっていたおじさんからのメールに、様態は安定しているが一日も早く帰って来て欲しいと書かれた物を見て、アキラはこのことを伝えに来てくれたのだとすぐに電話を掛けていた。
「おかあちゃん! おかぁちゃん! おかあちゃん!」
 ユィナは泣いていた。電話の向こうに驚いたように自分の名を呼ぶ母が居たからだ。
「帰るよあたし明日帰るから! おかあちゃん! ごめんなさい、ごめんなさい!」
 そしてまた泣く娘をなだめるミィナ、平気だから大丈夫だからと何度言われても娘は泣き止もうとはしなかった。
 ユィナはヒロミに朝一番で帰郷すると報告しに行くと、自分の事のように喜ぶ彼女に母娘で撮った写メを送ってと言われ、兄にはメールで伝えると、簡単に荷造りを済ませベッドに横になった。が、やっと会える母の顔と、昔の家族を想い寝返りを繰り返し、気だるい体のまま眠れずに返された携帯を覗き、俺の親友と交わしたメールを読み返しはじめた。

 バイト先へ向かう途中に届いたメールを読んだアキラは職場へは行かず、すぐにそれを消去するとイラついたように新宿駅構内のコインロッカーへ向かっていた。預けていた物は小さな紙袋。それを持ち出すとすぐ近くにあった公衆トイレに入り中身を取り出すと、それを両手で握り締め、険しい目で誰かに向かい銃口を定めた。

 北海道のミィナは我が子の帰郷をすぐにサイトウへ連絡したが、募る不安に押し潰されそうに、止めていたタバコに火を付けてしまっていた。そして時間だけは刻々と刻まれ続けそれぞれの明日を迎えようとしていた。

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