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193

妹兄193
 隅に置かれたビデオカメラのビューワーにRECマーク点滅している。微かな動作音を響かせ、ミィナのその時の様子が記録されていき、万が一何かあればすぐに対応できるようにと置かれたAED(自動体外式除細動器)も隅に置かれサイトウはそれが使われないことを願い、老医師の質問は静かに続いている。
《分裂とはあなたにとって何なのでしょう?》
「ユタカたちが、私たちに残した呪い…、でも、分からない、ハァハァハァハァ…」
 サイトウは固唾を飲んで見守っている。
《その瞬間の場面に戻れますか?》
「分からない…、
どうして分かったんだろう…、
どうして自分が二人になったって分かったの…、
どうして…、
あぁ、子供の声…、
寂しそうに、
泣いてるような…」
《子供がそこに居るんですか?》
「声だけです…
白いベッド…、
寝室のベッドは白くなかった…
床…、
白い床…、
バスルームぅうううう…」
 ミィナはうなされ始めた。
《あなたが、分裂した瞬間に居た場所がバスルームだった?》
「はぁはぁはぁはぁ」
 シャワーカーテンの向こう、流れている水の音、誰かの気配…、ミィナはその時に戻っていた。
「うぁあああああああああああああああ!」
 絶叫だった、苦しみ始めたミィナは、周りの何かを必死に追い払おうともがき、暴れ始めた。
「ああああああああ、顔が見える! 子供!」
《子供は知ってる子ですか?》
「あぁあああああああ! ぎゃっぁああああああああああ!」
《知ってる子供がそこにいるんですね?》
「知らない! 知らない! 怖い怖い怖い怖い、いやだいやだいやだいやだあああああああ!」
 怯えるだけの彼女は喚き散らし痙攣しはじめると、そして絶叫の後、バウンドしたと思ったとたん、宙に浮かんでいた。カメラのビューワーにはノイズが唐突に走り、何者かが彼女の上にのしかかり叫んでいるようにも見える小さな生き物が写りこんでいたが、すぐに消え、それは暗がりの部屋で見た幻覚かもしれなかった。だが、ほんの一瞬の出来事が医師たちの目には永遠のように思えていた。
「あぁあああ、こ、これは! 彼女はいったい」
「危ない! 極度の緊張で筋肉が収縮してる…、こんなことは… こんなこと… 中止します」
 驚きながらも冷静に対処する老医師、サイトウは蒼ざめた顔の彼女のばたつく手足を押さえ、AEDの場所を確認していた。

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妹兄194
「あなたは光を感じたら、目覚めます」
「いゃああああああ~!」
「ミナヨさん、しっかりするんだ、ミナヨ!」
 サイトウは暴れる彼女を押さえ、名前を呼んでいた。
「もう大丈夫です、だいじょうぶですよ今のはただの夢です、この指何本に見えますか?」
 老医師は手を振っていた。
「はぁはぁはぁはぁ… 指? それはペンライトです…」
「はい正解、少しそこのベッドでお休みになってくださいね、すぐに動いちゃだめですからね? ちょっと用足しに行ってくる、サイトウ先生後で話そう」

 老医師がデスクからタバコを取り外へ出てい行くと、サイトウはミィナを抱き上げ、ベッドに寝かしつけると、汗ばんだ額をハンカチでぬぐってあげた。
「ハァハァハァ」
 記憶の中に落ちてしまった彼女は、何かを見てしまっていたが目の覚めた今、夢のような出来事にはっきりとは思い出せず、ただ怯えながら彼の手を握りしめていた。
「怖かった、怖かったです、もうこんなことイヤです、ものすごい悪夢を見てたような、恐怖しか残ってない…」
「大丈夫、だいじょうぶだから」
「わ、わたしの名前は違うんです、ちがうんです…」
「ミイナさんの方がしっくりきますか?」
「ぁああああ」
 わっと泣き出してしまった彼女を抱き止めたサイトウは、ミィナを見つめたまま唇を求めていた、口づけされてしまったミィナは、思いも寄らない事に驚き泣きやんでしまっていた。
「あなたのことを愛してる」
『ぇえ…』
 動揺してるミィナを、彼はいっそう強く抱きしめ、その細い肩をさすっていた。
「もぅこんな目にはあわせない…、はじめ僕は、あなたたちを引き合わせた上で、検査しようと考えていましたでも…、今回のことで直接会わせるのはまずいと思っています、一人で行動する気だったんですか? それとも、本当に諦めてしまったんですか?!」
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195

妹兄195
 少しの沈黙の後、サイトウが言った。
「ハムラミイナ…」
「えっ、ハムラ? 私の本当の名前は…」
「カミオカミイナですね?」
「あぁあああ、まさか、まさか! もう一人の?!」
 彼を見つめる目が険しくなった。
「恋人の事故を調べていたら、あなたの名前は違っていました…」
『あぁあああああ』
 茫然としたミィナは顔を隠すように両手で覆い、ヒロミに雇われていた頃の事を思い出してしまった。
『あれは私の過失…、人が焼け死んだんだ…、私は発覚するのが怖くて逃げただけ? 全部娘の為にとすり替えた?!』
「これ以上あなたに迷惑はかけられない、私は犯罪を犯しているんです! 逃げて来ただけなんです! 嬉しかったあなたに会えて…、でもこうなっていくことは分かってた、もう一人はどこに居るんです! 家族、子供は!」
「いつか本当の事を話してくれますか?」
 震えるミィナを、サイトウは鎮めようと肩を抱くと彼女は頷いていた。
「大変な事故にあわれたショックで、心療クリニックで治療中でした…」
「誰か亡くなったんですか?! まさか…」
「旦那さんが亡くなっていました…、二人居たお子さんたちは無事のようでした」
「子供がいるんですね! 子供たちの名前は?! 住所も教えてくださいお願いです!」
 ミィナはサイトウの胸を揺さぶっていた。
「まず僕に手紙を書かさせて下さい、採血できるようお願いする内容の手紙を、それをハムラの息子さんに出させてください」
「連絡が取れたら…、会いに行くんですか?」
「僕が行くのは何も問題が無いはずです、ハムラさん一家が無理でも、あなたのお子さんたちには会わないと、あなたの手術だけはなんとしてでも承諾してもらわないと…」
「あぁああ…、もう関わらないでください恐ろしいんです、あなたにもし何かあったら…、私はわたしは…」
「約束しましたよね? 僕はあなたのプライベートは一切口外しないと、そして僕はあなたを…、まだ信用してもらえませんか?」
「そういうことではないんです、私は先生のことがたまらなく心配なんです!」
『私もあなたを…』
 自分の気持ちに気づいてしまったミィナは、見つめられていた目を逸らし戸惑っていた。
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