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207

妹兄207
「…答えてもいいけど、どうせ信じないし無理だし、あなたたちはもっと混乱することになる…、もっともっと気が狂いそうになる話しなの…、イチロウさんは本当の私を見ないで旅立って良かったと思うよぉ、そうねあの子、チヒロちゃんが一番可愛そうよね…、こんな私に育てられて…、でも、どうしようもない…、ずっとずっと嘘を突き通してきた私は、今のこの姿がとても気に入っているのぉ、後の事なんかどうでもいい! もうどうなってもぉお!」
「でもね…、一つだけ言ってあげる、私はあなたを殺して自分も死のうとした…、もうずっとずっと昔の話し… ねぇ、この首の傷覚えてる? うふふ」
 ネグリジェをはだけさせ見せる首の根元辺りにある傷。それは昔、もっと生々しかったことを、ユウキはよく覚えていた。
「でも殺せなかった、私も死ねなかった…、分かる? お前に私の苦しみが分かる? お前は私の大事な宝物! そして気が狂っていくようにあなたを愛し始めた…、ユタカを追い出せるのはあなたしか居なかったから~」
「”あいつ”が現れて良かったのよ、だって目を覚まさせてくれたから…、絶対に追い出せないんだってことを! だからその日が来るのを待ってるだけぇ~、くふふふふふふっ~」
 ユウキは猛然とまくし立てるように話す母を見ていた。そして彼女が何か、とてつもない何かに苛(さいな)まれているんだと、事故の時に現れた”あいつは”その引き金を引いただけで、母は自分の中に本物の呪いを抱えているんだと感じていた。
「…あいつ、あいつって誰なの? もういいよ、もうたくさんだ! その印を付けた日に何が起こると思っているの? 全部話してよ!!」
「何が起こるのだろうねぇ うふふふふぅ~」
「あぁああ違う、ちがうちがうんだ! 命日だ! その日はユタカパパの死んだ日だ。そうなんだね? ミィナ!」
 これ以上ない程のチャンスを掴めそうなライブ日と偶然の重なりに気づき、真剣な眼差しの息子をせせら笑うかのように、母は不適な笑みを見せていた。
「あなたが~、あいつぉ~連れてくるのぉ~、もうあまり時間は無い…、あいつは今でも皆を救う気でいる、私には分かる、どんなに離れてても分かる、それを私が分からせてやる! 生きているだけの絶望を!」
「ぁああああ…、ママ…」
「お前はもうここに来なくていい! お前なんか産まなければ良かったんだ! どこへでも消え失せろ! そう消えて無くなるのだからぁぁああああ」
「ミィナ…」
 懇願するような目で母を見つめるユウキ、その秘めた狂気を目の当たりにし、彼女を抱き止めることもできずただ立ちすくんでいた。

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