ふたり61
*
いつものように出勤を見送られ、いつものように、マンションの手摺で手を振るふたり。
私が見えなくなるまでそこに居るふたりに、しょうがなぃなーっと、振り向き手を振り返そうとした。
その時だった。
一方のユタカの姿が、うねる影のようなり揺れはじめ、徐々に背景へと溶け込んでいくのが見えていた。そして、霧のように消えてしまったのだ!
『キャーーーーー』
私は声にならない悲鳴を上げた。
すると、もう一人のユタカが、胸を苦しそうに押さえ呻きだし、その場でもがきはじめてしまった。壁をどんどん叩き、手摺に体半分を、もたれさせたように見えた。その瞬間…。
『あ! ダメ!』
彼はそのまま意識を無くした様に、壁の前方へグルリと回転していた…。
その様子は全部、スローモーションに見えていた…。
『だめぇーーーーー!』
ドスン!
鈍い音がし、恋人の二階からの落下に駆け寄ると。後頭部から溢れる血が、コンクリートの地面を染めていった…。
「いゃあああああああ!」
彼を抱き、空を仰いだ。
そこにはまだ黒い霞のような物が漂っていたが、それもすぐに消えてしまった…。
今の、今まで元気だったユタカたち…。
心の準備なんかしてなかった。
できるはずが無かった。
何ヶ月も、普通に暮らせていたんだ…。
『もう、おかしなことにはなりそうもないかも』
誰もがそう呟き、安心しきっていた…。
誰かが呼んでくれた救急車に、近所の人の肩を借り同乗させてもらった私は、救命処置を施されるユタカに、必死で声をかけ続けた。
▼応援してもらえると、書く気力が沸いてきます。
アルファポリスで応援
にほんブログ村で応援
いつものように出勤を見送られ、いつものように、マンションの手摺で手を振るふたり。
私が見えなくなるまでそこに居るふたりに、しょうがなぃなーっと、振り向き手を振り返そうとした。
その時だった。
一方のユタカの姿が、うねる影のようなり揺れはじめ、徐々に背景へと溶け込んでいくのが見えていた。そして、霧のように消えてしまったのだ!
『キャーーーーー』
私は声にならない悲鳴を上げた。
すると、もう一人のユタカが、胸を苦しそうに押さえ呻きだし、その場でもがきはじめてしまった。壁をどんどん叩き、手摺に体半分を、もたれさせたように見えた。その瞬間…。
『あ! ダメ!』
彼はそのまま意識を無くした様に、壁の前方へグルリと回転していた…。
その様子は全部、スローモーションに見えていた…。
『だめぇーーーーー!』
ドスン!
鈍い音がし、恋人の二階からの落下に駆け寄ると。後頭部から溢れる血が、コンクリートの地面を染めていった…。
「いゃあああああああ!」
彼を抱き、空を仰いだ。
そこにはまだ黒い霞のような物が漂っていたが、それもすぐに消えてしまった…。
今の、今まで元気だったユタカたち…。
心の準備なんかしてなかった。
できるはずが無かった。
何ヶ月も、普通に暮らせていたんだ…。
『もう、おかしなことにはなりそうもないかも』
誰もがそう呟き、安心しきっていた…。
誰かが呼んでくれた救急車に、近所の人の肩を借り同乗させてもらった私は、救命処置を施されるユタカに、必死で声をかけ続けた。
▼応援してもらえると、書く気力が沸いてきます。
アルファポリスで応援
にほんブログ村で応援
- 関連記事
-
- ふたり59 (2010/12/16)
- ふたり60 (2010/12/16)
- ふたり61 (2010/12/16)
- ふたり62 (2010/12/16)
- ふたり63 (2010/12/16)